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深い河:遠藤周作

しばらくミステリー物ばかり読んでいたので、別のジャンルを読もうということになり、たまたまネットで紹介されていた旅物を読むことにしました。

そのうちの一冊として紹介されていたのが、「深い河」でした。
遠藤周作の本自体、読んだことがなかったので、初めての遠藤周作ということになりましたが、この本を書いたのは著者が病床に臥せっているときだったそうです。刊行した1993年の3年後に亡くなったのでかなり後期の作品ということになります。

旅物というと、ぶらりと出かけた旅行先で発見があったり、自分を見つめなおしたりして、また日常に戻っていく…というような現代的な前向きなイメージを持っていたのですが、この小説は異なりました。

登場人物は複数人いて、ある者は配偶者を病気で亡くし、ある者は戦争を経験している、というように、それぞれが過去に何等かの心にしこりの残る経験をしており、そのしこりの正体を知りたいのか、取り去りたいのか、自分を納得させるためにインドへの観光ツアーに参加してかの地の「聖なる河」であるガンジス川に至る…というストーリーです。

唯物神であるキリスト教という宗教の考え方における著者の思いが垣間見られるように思います。
また、ガンジス川が神聖であるという考え方と、衛生観念的な不浄という考え方の対比が、日常として受け入れている人と、観光名所として接する旅行者の目線で明らかに異なるということが、小説ではありますが、実際にそうなんだろうと理解させてくれます。

終わり方が私にしてみればかなり唐突に見えたので、まさか絶筆なのかと思いましたが、違うようです。
著者の宗教観には共感できるものがあると思いました。

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