HOME生活感想砂の女:安部公房

砂の女:安部公房

昆虫好きの主人公が、昆虫採集のために砂丘にいったところ、砂丘にあいている砂の穴の底に連れていかれ、そこから脱出できなくなってしまう、という不思議な話です。

砂に囲われた盆地、というよりはほぼ穴という感じだと思いますが、そこに連れていかれた主人公は、ある一軒の家で暮らしながら、脱出の機会をうかがいます。
あらゆる手段で脱出を試みますが、そのたびにうまくいかない。また、砂が始終頭から降り注いでくる生活にどうやって対応していくかというようなことが延々と書かれています。
この本、世界的にも名著として有名らしく、本のみならず戯曲などにもなっているということですが、私にはピンとこない内容でした。
人間の習性を描写したものであることは間違いなく、それ以外の部分、例えばなぜ砂の穴の底に住み続けられるのかというようなことは何ら背景が説明されません。そこはどうでもよいので切り捨てた、ということでしょう。
不要なものをそぎ落とすというのは理解できます。それらを足すことで話を長くすることもできるわけですが、冗長になると読後にあれはなんだったんだ、いらなかったじゃないかと思ってしまうと白けてしまいます。

それでも、ある一つのこと(=この場合は脱出)を目的として、延々とそれを試みながら失敗して、最後に結末が待っている、という展開は、実際のところ読んでいて退屈になってしまいます。
わたしが、話が進んでいくことで新たな疑問や場面展開があるという流れが好きだから、というだけの話ではありますが、同じような好みの人にはお勧めしません。
しかしながら、さんざんに脱出を試みることが、この「砂の女」という本の場合には最後に活きてくるのは間違いありません。
だから、好みの問題ということです。

ただ、この本が1962年に出版されているということを考えると見方が変わってくるように思います。
わたしがこの本に面白さを感じなかったのは、同じような手法の話を既に幾つも知っているからです。例えば本であったり、映画であったりするのですが、もとをただせば源流はここにあるのかもしれません。
社会の縮図である、という見方もあるようですが、それを読み取れたとしてもだから面白いとならなかったのもそのせいでしょう。
そういう意味では、この構成を考えたということで先駆者としての偉大さを感じます。60年以上前の話なので、現代人にはもはや古典というレベルの古さかもしれませんが、その時点でこの手法を考えたということであれば、読むに値するし、世界的に絶賛されても不思議ではありません。
後世の人が、この手法を真似して同じような内容が多産されたと考えれば、まずこの本に出会いたかったなと残念な気持ちになるのでした。

関連記事

13階段:高野和明

「13階段」は映画にもなった有名な小説です。サスペンス物ということで読んでみました。 主人公は過去に不慮の事故で相手を死に至らしめてしまった、三上という青年です。彼は刑務官の南郷に誘われて、死刑囚の冤…続きを読む

パラドックス13:東野圭吾

ある日、地球上に何が起こるかわからない異変が迫ります。 それは13秒間だけ起こる異変で、その間には極力危険なことはしないように、というお達しが警察になされます。 しかし、その13秒間に犯人を追っていた…続きを読む

おまえさん(上・下):宮部みゆき

宮部みゆきの本は好きで、いろんなシリーズを読んできました。 そこで感じたのは、宮部みゆきの話には、物語パートのほかに、調べた物事を説明するパートがあるように思います。 金融の話であれば、詳しくどうなっ…続きを読む

ひとり旅日和:秋川滝美

主人公の日和(ひより)は、24歳のOLです。性格は内気で人と会話するのが苦手、要領もよくありません。だから会社でも上司に怒られてばかり。 そんなある日、自分を採用してくれた社長から旅を薦められます。 …続きを読む

連続殺人鬼カエル男:中山七里

数年前に動画配信サイトの無料枠で「連続殺人鬼カエル男」というドラマが配信されていました。 そのときに興味がわいたものの、結局見ないでそのままにしてしまいました。 それからしばらくして、その原作が小説と…続きを読む

深い河:遠藤周作

しばらくミステリー物ばかり読んでいたので、別のジャンルを読もうということになり、たまたまネットで紹介されていた旅物を読むことにしました。 そのうちの一冊として紹介されていたのが、「深い河」でした。 遠…続きを読む

むらさきのスカートの女:今村夏子

「何も起こらないのに面白いとTikTokで話題沸騰!」という帯に惹かれ、あらすじをチェックすると、主人公がいつも近所でみかける「むらさきのスカートの女」と友達になりたいが故に、自分の職場に就職するよう…続きを読む

さかなのこ(映画)

さかなクンの自伝「さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生! 」を元に映画化したものが「さかなのこ」です。 最初、映画館の広告でこれをみたときに、おもしろそうだなと思いました。 短期間に再び映画館に行…続きを読む

震える岩 霊験お初捕物控:宮部みゆき

わたしは、いわゆる時代物と呼ばれる、江戸時代など過去の時代背景を題材にした本を割と読みます。 以前は藤沢周平ばかりを読んでおり、その世界観や必殺技などに魅せられていました。では次に誰の時代物を読もう?…続きを読む

すべてがFになる:森博嗣

「すべてがFになる」は、過去に両親殺害を疑われる天才科学者の殺害がどうして起こったのか、を解決していく話です。 テンポよく話が進むため非常に読みやすいと感じました。 違和感があったのは、登場人物のほと…続きを読む