おまえさん(上・下):宮部みゆき
宮部みゆきの本は好きで、いろんなシリーズを読んできました。
そこで感じたのは、宮部みゆきの話には、物語パートのほかに、調べた物事を説明するパートがあるように思います。
金融の話であれば、詳しくどうなっているのか、という仕組みを説明してくれる部分があります。
その部分がとても説明的で、読んでいる方としては物語を楽しみながら勉強にもなってしまうという感じですが、悪くいうと説明部分だけが浮いていると感じてしまうこともあります。
しかし、宮部みゆきのすごいところは、あらゆるジャンルの話を垣根なく書いてしまうところだと思います。
それこそミステリーから少年物、時代物など…。
中でも私は時代物が好きで、藤沢周平を好んで読んでいたのですが、宮部みゆきが書く時代物にも興味がわいたため、読んでみたのが、このシリーズの最初、「ぼんくら」でした。
「おまえさん」は、「ぼんくら」で登場した人物が織りなすシリーズの3作目で、「ぼんくら」「日暮らし」「おまえさん」の3部作となっています(今のところ続刊がないため)。
既に「ぼんくら」「日暮らし」も読んでおり、満を持しての「おまえさん」ということで読んでみました。
とにかくこのシリーズが好きだと思うのは、物語の中に登場する人物一人一人の特徴がしっかりと作りこまれているため、本当に生きているような、その世界に自分が入り込んで近所の人たちの生活をみているような気分になるところです。
威勢はいいけど人情味があり困っている人を放っておけない、「おとく屋」の女将・お徳のお店で煮物や総菜を食べてみたい。
一度記憶したことは忘れない、「おでこ」こと三太郎に、どのくらい昔の話まで覚えているのか確かめてみたい。
登場人物に会ってみたいと思えるような生活感がそこに広がっているのが心地いいのです。
物語は軸となる「事件」があるのですが、その事件が深くなる前に繰り広げられる日常生活の中の変化や、事件が解決した後に、後日談のように枝葉に分かれていたストーリーにきちんと落ちをつけ、それらが温かい結末で締めくくられるのも、とてもよいのです。
これはご都合主義などではなく、あるべきところに落ち着いたという結末の仕方です。
中でも、奥さんに先立たれた丸助が、心の中の奥さんに「もう寂しくないですね」と言われて、寂しくも力強く送り出すシーンはなんだか泣けました。
ミステリーあり、涙ありと、宮部みゆきの真骨頂ではないでしょうか。
さわやかな読後感に包まれるお薦めの一冊です。
関連記事
すべてがFになる:森博嗣
「すべてがFになる」は、過去に両親殺害を疑われる天才科学者の殺害がどうして起こったのか、を解決していく話です。 テンポよく話が進むため非常に読みやすいと感じました。 違和感があったのは、登場人物のほと…続きを読む
黒祠の島:小野不由美
黒祠とは、明治時代の祭政一致政策の折に様々な神を統合して再編成しようとした際に、統合を免れて、その地域で独自の宗教となったものを意味します。黒祠=邪教というとらえられ方もします。 そのような独自の宗教…続きを読む
55歳からのハローライフ:村上龍
サスペンス続きだったので、別の話を、と思い手に取ったのが「55歳からのハローライフ」です。 定年を前に仕事を辞めた人、仕事をなくした人たちの、これからどうしようか、という困惑とそこから前向きになる過程…続きを読む
DC がんばれ!スーパーペット(映画)
「DC がんばれ!スーパーペット」は、ワーナーブラザーズのCGアニメ映画です。 この映画も、他の映画を見ているときに流れた広告を見て、子供が「今度はこれを見たい」といったのがきっかけで、ある暇な休日の…続きを読む
桜ほうさら:宮部みゆき
「桜ほうさら」は上下巻からなる宮部みゆきの時代小説です。 剣の腕は大したことはないけれど、文筆には覚えのある心優しい侍が主人公、古橋笙之介です。 自分の父親が陰謀に巻き込まれたことを知らされ、架空の田…続きを読む
さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!:さかなクン
映画「さかなのこ」を見たので、今度は原作を読んでみました。 さかなクンの半生を綴った自伝です。 こちらがほぼ実話だとするならば、映画はかなりフィクションが入っていました。映画の場合には、明らかにフィク…続きを読む
パラドックス13:東野圭吾
ある日、地球上に何が起こるかわからない異変が迫ります。 それは13秒間だけ起こる異変で、その間には極力危険なことはしないように、というお達しが警察になされます。 しかし、その13秒間に犯人を追っていた…続きを読む
ソロモンの偽証:宮部みゆき
映画化されてもいるし、前からあるなとは思っていたけれど、3部作(文庫本だと6冊)のため長いからなかなか手を出せずにいた、ソロモンの偽証を読んでみました。 映画も見たことはないのですが、あらすじで学校内…続きを読む
野生のロボット:ピーター・ブラウン
野生のロボットは、子供向けの本です。 うちの子に読ませたら読むのではないか?と考えて手に取りました。 うちの子は、なかなか本を積極的に読まず、漫画やゾロリなど読みやすいものばかりを読んでしまいます。も…続きを読む
ダイイング・アイ:東野圭吾
交通事故を起こしてから記憶を一部失ってしまった主人公。 やがて自分が事故をしてしまった時のことを調べ始めます。 すると、謎の美女が主人公の前に現れます。 どうやらその美女は自分が事故で殺害してしまった…続きを読む