個人型確定拠出年金について
個人型確定拠出年金とは、individual-type Defined Contribution pension planのことで、略してiDeCoと言われます。
毎月決まった額(自分で決められます)を積み立てて、その資金で老後の備えをする公的年金制度です。
この制度では、資産の運用は自己責任になります。自己責任とはいえ実際に資金を運用するのは銀行や証券会社、保険会社といったところになります。どの金融商品を選ぶかによってリスク等が変わってきます。
今まで企業は、確定給付年金という、最終的に支払われる額を企業が保証する年金を採用していましたが、その額を保証できなくなったためか、確定拠出年金に変更する会社も増えてきました。
第3の年金
確定拠出年金は、国民年金、厚生年金と組み合わせて資産形成を行うためのもので、第3の年金と言われます。
確定拠出年金を行うと掛け金全額が控除の対象となるため、年末調整でお金が戻ってくることになります。
このようなメリットがあるために、確定拠出年金は行うべきだという論調がもっぱらですが、もちろんデメリットもあります。これらのメリット・デメリットを考えたうえで加入を検討しなければなりません。
また、それ以前に加入できるか否かという根本的な問題もあります。
確定拠出年金への加入
確定拠出年金には企業型、個人型があります。企業型は企業で加入しているものです。個人型は個人で加入するものです。
確定拠出年金の加入には以下の特徴があります。
企業型の確定拠出年金に入っており、なおかつ企業がマッチング拠出制度を採用している場合、個人型の確定拠出年金に入ることはできません(マッチング拠出制度を採用していない場合には可能)。
また、ある金融機関で個人型確定拠出年金に加入して、同時に別の金融機関で確定拠出年金に加入する、ということはできません。
金融機関の移動などは可能ですが、同時に二つ加入することは認められていません。
また加入できる人は以下の人です。
- 第1号被保険者(自営業者)
- 第2号被保険者(サラリーマン、公務員)
- 第3号被保険者(専業主婦(夫))
掛け金の支払い
確定拠出年金の支払いは、口座振替で毎月の引き落としによって行われます。
支払いは最低5000円から、1000円ずつ増やすことができ、最大で支払える額が決まっています。
企業型確定拠出年金の場合
企業型確定拠出年金の場合、月額の掛け金の限度額は55000円か27500円のいずれかになります。
- 限度額55000円の場合
確定拠出年金のみ採用している場合
確定拠出年金+退職一時金を採用している場合
確定拠出年金+中小企業退職金共済を採用している場合
- 限度額27500円の場合
確定拠出年金+企業年金を採用している場合
確定拠出年金+企業年金+厚生年金基金を採用している場合
個人型確定拠出年金の場合
個人型の場合には、その人が第何号被保険者かによって限度額が決まっています。
- 第1号被保険者(自営業者)
68000円
国民年金基金、付加保険料の納付がある場合は合算で68000円まで。
- 第2号被保険者(サラリーマン、専業主婦(夫))
23000円
厚生年金基金、確定給付年金、確定拠出年金の制度がない場合。
- 第3号被保険者(公務員)
12000円
企業型に掛け金を上乗せできるマッチング拠出制度
マッチング拠出制度とは、企業型確定拠出年金において、従業員が掛け金を上乗せすることができる制度のことです。
マッチング拠出制度は、企業がその制度を取り入れているか否かによって使うことができるかできないかが決まります。
もしマッチング拠出制度を採用している場合には、従業員が上乗せできる掛け金は、以下のいずれかになります。
- 企業が拠出した金額と同額
- 上限額から企業が拠出した金額
(上限額は上記の55000円または27500円)
確定拠出年金の種類
確定拠出年金といっても、何に投資するかでリスクや運用益、手数料の額が変わってきます。
- 定期預金(元本確保型、リスク低、運用益低)
- 保険(元本確保型、リスク低、運用益低)
- 投資信託(元本非保証、リスク高、運用益高)
確定拠出年金は、金融機関にお金を積み立てて、将来受け取ることができる年齢になったら年金(もしくは一時金)としてお金を受け取ることができるようにするものです。
金融機関は、預かったお金を使い、何らかの運用をします。その運用で得た利益が金融機関の利益にもなり、預けた人自身の運用益にもなります。
定期預金型の確定拠出年金の場合、低金利であるため将来的に得られる利益は低く抑えられますが、その反面元本割れリスクがありません。
一方で、投資信託型の確定拠出年金の場合、利回りがより高い株などの複合型の金融商品で運用するため、リターンも大きくなります。その代り、株価の変動によっては元本割れのリスクもありえます。
また、リターンの高いものは手数料が低い傾向にあり、リターンの低いものは手数料が高くなりがちです。この手数料とは、毎月かかる口座管理費などです。
金融機関によって手数料の額も変わるので、契約する前に調べましょう。
確定拠出年金のメリット
確定拠出年金のメリットは以下の5点です。
- 掛け金が全額所得控除される
- 運用益は全額非課税
- 運用期間が短くても利益を得られる
- 保育料を下げることができる
- 自己破産時の清算対象にならない
掛け金が全額所得控除される
個人型の場合には、掛け金全額が所得控除の対象となり、所得税と住民税が軽減されます。
企業型の場合は、掛け金の全額が給与所得とみなされず課税対象になりません。マッチング拠出の掛け金は、全額が所得控除の対象になります。
運用益は全額非課税
確定拠出年金を運用している金融商品によって、運用益が得られる場合があります。定期預金であれば利息が付き、投資信託であれば成績が良ければその分が運用益となります。
通常の預金の利息は約15%、株式の利回り・運用益は約20%の課税となりますが、確定拠出年金の場合には全額が非課税となります。
運用期間が短くても利益を得られる
確定拠出年金では掛け金が全額非課税となり、さらに受給額の一部が非課税となりますが、これを利用すれば短期間の定期預金型であっても利益が出ることになります。
保育料を下げることができる
公立の保育園に通わせている場合には、保育料は住民税の額で決まるため、住民税の負担額が減れば保育料が安くなる可能性があります。
自治体にもよりますが、以下の控除は保育料の計算時には差し引かれずに計算されます。
- 配当控除
- 住宅借入金等特別税額控除
- 寄附金税額控除
- 外国税額控除
- 株式等譲渡所得割額控除
つまり、これらの控除以外、たとえば確定拠出年金の掛け金・運用益の控除については、保育料の算定時に加味されないということになります。
とはいえ、保育料の算定水準がギリギリではない人にとっては、数万円が差し引かれても変化がないこともあります。
自己破産時の清算対象にならない
確定拠出年金は、確定拠出年金法第32条により、換価不要な資産であり保護される旨が明記されています。
つまり、自己破産をしたとしても60歳以降に年金(もしくは一時金)を受給することができるということです。
確定拠出年金のデメリット
確定拠出年金のデメリットは、以下の7点です。
- 元本保証されない商品もある
- 手数料がかかる
- 受け取り時に税金がかかる
- 60歳までは解約できない
- 特別法人税がかかる
- 専業主婦(夫)には控除がなく課税される場合がある
- 別の税制メリットが減る
元本保証されない商品もある
確定拠出年金といっても、何の金融商品で運用しているのかは、金融機関によって異なります。
例えば、投資信託として運用している場合には、その投資信託を構成する金融商品がハイリスク・ハイリターンのものであれば、うまく運用されればリターンは大きくなるものの、その分、元本割れのリスクも高まることになります。
また、定期預金で運用する場合には、元本が確保され安全性は高くなりますが、その分利回り(運用益)が低くなります。
手数料がかかる
金融機関によって、加入時の手数料と口座管理費の手数料がかかります。
特に重要なのは、毎月の手数料で、以下の3つがあります。
- 国民年金連合会(103円/月)
- 事務委託金融機関手数料(64円/月)
- 運営管理機関手数料(0~/月)
金融機関によっては手数料0円のところもあるので、最低で月167円、年間で2004円かかることになります。
この手数料は定額のため、掛け金が少ないほど損をすることになります。
受け取り時に税金がかかる
確定拠出年金の掛け金や利息は非課税ですが、受け取り時に課税されます。ただし、受け取り方によって非課税枠があります。
老齢給付金(一時金)として受け取る
一時金として受け取る場合には、退職所得扱いになり、退職所得控除の対象になります。退職所得の計算式は、以下の通りです。
退職所得(課税対象額)=(退職金収入額 - 退職所得控除額)×1/2
勤続年数にあたる期間は、掛け金を支払っていた期間になります。
60歳で一時金として受け取る場合には、20年以下であれば、
非課税枠 = 40万円 × 加入年数
21年以上加入していれば、
非課税枠 = 70万円 × (加入年数 - 20年)+ 800万円
となります。
老齢給付金(年金)として受け取る
年金として受け取る場合には、雑所得扱いになり、公的年金等控除の対象になります。
つまり、確定拠出年金を年金として受け取る場合には、源泉徴収されるということです(障害給付金を除く)。
公的年金の雑所得額の計算は、以下の式で求めます。
公的年金等の雑所得(課税対象額)= 公的年金等収入額 - 公的年金等控除額
障害給付金として受け取る
障害給付金として受け取る場合には、所得税、住民税ともに非課税となります。
この場合、加入者が70歳になるまでに障害を負ったという証明(障害年金基金の受け取り、身体障碍者手帳の交付、療育手帳の交付、精神保健福祉手帳の交付)が必要になります。
死亡一時金として受け取る
死亡一時金として受け取る場合には、みなし相続財産として相続税の課税対象になりますが、法定相続人一人当たり500万円までが非課税となります。
60歳までは解約できない
確定拠出年金は60~70歳の間に受け取ることが決まっています。
いつ受け取ることができるかは運用期間によります。
- 60歳から受け取る:運用期間10年以上
- 61歳から受け取る:運用期間8年以上
- 62歳から受け取る:運用期間6年以上
- 63歳から受け取る:運用期間4年以上
- 64歳から受け取る:運用期間2年以上
- 65歳から受け取る:運用期間1月以上
- 70歳から受け取る:加入者が請求しなくても受給が開始される
また、一度契約をすると、基本的には途中解約することはできず、最短でも60歳にならないと受け取ることができません。
積立期間が短い場合には受給開始年齢もその分遅れるため、60歳で受け取ることができない場合もあります。
金融機関を乗り換えることはできますが、その際も手続等で1~2か月の期間を要します。
仮に支払うことができなくなった場合には、一時的に引き落としを停止することになりますが、それでも毎月の維持手数料として数十円がかかります。
支払いがきつい際には、掛け金の変更をすることは認められています。
特別法人税がかかる
2017年3月までは凍結されていますが、資産運用残高に対して、毎年、特別法人税として1.173%かかることになっています。
100万円ならば1万円強徴収されるということで馬鹿にならない額です。
専業主婦(夫)には控除がなく課税される場合がある
専業主婦(夫)の場合は、基本的には所得がありません。したがって、所得控除の恩恵を受けることができません。
また、60歳以上になって受給する際に退職所得控除を受けられますが、控除額は一定額であるため、一定額を超えた範囲は課税されることになります。
所得がない専業主婦(夫)の掛け金は、所得のある配偶者が払うことが多くなりますが、その場合、配偶者の所得は課税後のものです。つまり一度税金を引かれているお金であるにも関わらず、受け取り時にはさらに課税されるということです。
さらに、運用コストとして毎月管理費がかかりますが、専業主婦(夫)以外は、所得控除の方が額が大きいため、差額でも控除額の方が多くなりメリットとなりますが、専業主婦(夫)の場合には、所得控除がないため、管理費はそのままコストとしてダイレクトに引かれる額となります。
このようなデメリットを考えると、専業主婦(夫)は、利回りの低い定期預金型ではなく、高利回りでリスクの高い投資信託型の商品での運用が望ましいことになりますが、その場合には元本割れのリスクが付きまとうことになります。
別の税制メリットが減る
確定拠出年金の掛け金は全額が所得控除の対象となります。ということは、その分は所得がないとみなされる、ということです。
つまり、所得額が高いほど控除の割合が高くなるようなほかの税制の場合には、控除額が減ってしまうことになります。具体的には以下のような税制です。
ふるさと納税の寄付額が減る
所得額の規模によって自己負担額を計算するふるさと納税の場合は、寄付額が減ることになります。
ふるさと納税は、所得額に応じて、可能な寄付金額が決まっており、最低自己負担額2000円以上は確定申告などで還付することができる制度です。
所得額が多いほど、寄付できる額も多くなるため、2000円でより多くの寄付ができることになります。この寄付といっても、納税する自治体により様々な特典を得ることができるため、実質的には2000円で買い物をしているような意味あいになります。
確定拠出年金により所得額が減ると、この寄付額算定時に減額されることがある、ということです。
住宅ローン控除が減る
住宅ローン控除についても、所得額の大きさによって減税分が減ります。
また、確定拠出年金を定期預金型で加入した場合には、節税はできるものの運用益はあまり得られず、掛け金を住宅ローンの返済に回した方が、住宅ローンの利息を減らすことで、運用益以上のメリットを得られる場合があります。
必ず損をするわけではありませんが、確認しておきたい部分です。
確定拠出年金の注意点
確定拠出年金をする上での注意点は、以下の3つです。
- 2つ以上加入できない
- 運用先が破たんした場合の保証1000万円は合算である
- 元本確保型であっても元本割れリスクがある
2つ以上加入できない
最初に述べたように、確定拠出年金は1つしか運用できません。企業で、企業型確定拠出年金に加入しており、マッチング拠出制度を採用していれば、個人型確定拠出年金はできません。
ただし、企業がマッチング拠出制度を採用していない場合は、企業型に加えて個人型に加入することができます。
企業が確定拠出年金を採用しており、マッチング拠出制度を導入している場合に、自己都合でマッチング拠出制度をやめて個人型に加入することはできません。
個人型であっても、三井住友銀行で個人型確定拠出年金をして、さらに楽天証券で個人型確定拠出年金を契約する、ということもできません。
サラリーマンであれば、まずは自分の会社が確定拠出年金であるのか否か、さらにマッチング制度を採用しているか否かを調べることから始めましょう。
運用先が破たんした場合の保証1000万円は合算である
預金保険制度により、金融機関が破たんしても預金額1000万円までとその利息は保証されることになっています。
しかし、普通預金をしている銀行で確定拠出年金を行った場合には、両方の合算で1000万円まで、という保証になるので注意が必要です。
元本確保型であっても元本割れリスクがある
元本確保型であったとしても、元本割れリスクとなる場合には以下があります。
- インフレ率が資産の増加よりも高い
- 解約時に損をする
インフレ率が資産の増加よりも高い
インフレ率が高くなると、額面での数字に変化はないものの、物価が上昇した分、紙幣の価値が下がっていることになります。インフレ率の増加以上の運用益を得られない場合には、実質的には元本割れしたことになります。
解約時に損をする
確定拠出年金に加入した場合には、途中で解約をすることができないと述べましたが、実は解約をすることができます。
ただし、解約できるケースは、掛け金総額が50万円以下で認められた場合、など非常に限られています。
もし途中解約が認められたとしても、それまでに支払った手数料よりも運用益等が上回っていなければ、損をしていることになります。
※この記事は2017年2月に執筆しています。
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